1ステートメント/倉田裕也 2011年1月
倉田のペインティグには主に野球関連の作品が多く見られ、民衆芸術を思わせる具象的かつアレゴリカルな手法で幻想的な世界を描いてきました。
『10年以上に渡って野球を題材に製作活動をしてきました。具体的には投手/打者やバットとボールなどを描いてきました。既に認識されている題材を新しい環境に置く事によって新しい物語を作る事ができます。私の絵画では、野球選手が野球をするというよりは、何かに向かって戦おうとしている瞬間を描いています。私達が住むこの社会では、実に多くの考え方や常識が存在します。そんな中で野球選手でさえも、何に向かってバットを振るかという選択肢もあるはずです。’僕らは何に向かって戦うべきなのでしょうか?’ その答えを探す為に野球というコンセプトと絵画表現を交えさせて探求していきたいと思っています。』
彼は1999年からNYを拠点に活動しています。

2「ノック・ザ・ボール」 /柏尾沙織, 2010年9月17日
1980年、日本の大阪府に生まれた倉田裕は、およそ戦争や飢えとは無縁である。彼の生まれ 育った環境を取り囲んでいたのは、高度経済成長期をえて豊かになった日本を象徴する、テレビゲームや漫画、スポーツ観戦、手軽なパック旅行、ファースト フードなどの消費、娯楽文化の数々だ。しかしながら、彼の作品が描く豊かさのアイコンたちは、わたしたちの現代性をあらわす一方で、その画面の一歩向こう で、同時に迷いや葛藤を抱えこんでいる。
2010年2月、倉田はチェルシーにあるJoshua Liner ギャラリーで7点の新作を発表した。青い海の広がる静かなバックグランドのなかに、突如として現れた野球選手や侍、力士、ケンタウルス。誰もいない 自然の状態と、非現実的な登場人物たちのシニカルなコラボレーションが露呈するのは、日常的な人間の不在である。いや、描かれてはいるのだが、彼らが主役 ではない。倉田はまるで今いる場所から逃げ出すかのように、イマジネーションの世界を画面のなかに繋ぎ合わせる。はたして、どこにも存在しない、彼だけの 世界を描きつづけるという行為は、彼が暗にかかえている、人間に対する恐れ、不信感、諦めなどが根底にあるからだろうか?
倉田は、今いる場所に近づこうとしている。ただそれをつかむのは、容易ではない。とくにバーチャルな体験や本物っぽい偽物が、いたるところに散乱するなか で、この焦燥感は、現代を表現するものたちにとって、切実見を帯びてきている。この葛藤のなかで、私たちが唯一手がかりとできるのは、残念ながらそのバー チャルな世界のなかにしかない。倉田は、野球選手のバッドをリマインダーと呼んでいる。忘れそうになる何かを思い出させてくれるからだ。モードやシーズン など、流れ漂う美学が蔓延するなかで、繰り返し執拗に描きつづける野球というテーマのもと、倉田はバッドの持つもう一つの意味合い、暴力性を、冷静なパー スペクティブのなかで掘り起こしてきた。日本やアメリカなどの先進国に住む多くのものたちにとって、戦争や飢餓などは、まるで遠い世界のうわさ話である。 現代社会がどっぷりとつかった感覚の薄れた世界のなかで、アーティストにとってそのバッドは、もっとも生の感覚を呼び覚ます対象だったのであろう。たとえ ば、最近の彼の作品が、ライフルなどのより具体的な道具を取り扱うようになってきたのは、彼の制作が彼に与えてきた影響の一つの結果なのかもしれない。
そのより生々しい現実性にたいして目を向ける一方で、彼はまたアーティストとして新たな一面もかいまみせる。自分にとってリマインダーであったバットの持 つ、平穏と暴力のあいだを行き来するという、中間性への注目である。さきほど、彼は人間に対して、不信感を抱いているのかと問うたが、おそらくその答え は、ノーであろう。人間について語るときに、彼は「ゲーム」という概念をしばしば持ち出す。倉田にとって「ゲーム」とは、人間が野蛮に陥る瀬戸際で、かろ うじて善であろうとする試みの一つである。ゲームの世界のなかには、競争、欺き、死をともなわないギリギリの暴力などが含まれているが、しかしながら、彼 にとっての野球のバッドが象徴するように、人を殴る一瞬の手前で、ボールを打つことへの変換を促すことができるのは、人間だからであり、彼はそこに肉体的 な力よりも、愛という精神的なパワーを読み取っているのだ。
倉田は現在、ニューヨークのブルックリンで制作を続けている。ゲームの不可触の世界やイマジネーションの領域へ完全に閉じこもるでもなく、かといって人間 を動物といって蔑むのでもなく、真摯に葛藤をともないながら、描き続ける彼の作品は、くしくもこの世界の希望を表しているかのように、鮮やかで、柔らかな 描線に満ち溢れている。

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